短歌

陽の高いゼブラゾーンに立ち尽くす 喧噪あれど人はどこにも

沈黙のワールドのなか探すのは 光に焼かれぬ影の片割れ

初出 2020/11/8


草を踏むやわらかな音に気づくときタチアオイただ紅く佇む

バス停とベンチと影とタチアオイ逃げ水に燃ゆ遠くなる色

初出 2020/7/8


みせさきのみずのみどりがうなずけば きっとわたしはうちへかえれる

あの人が帰ってきたら本を置き 抱きしめようと何度も思う

初出 2019/11/15


欲望と願いと好きを選んだら サラダボウルに混ぜる絡める

異世界で教わったのだと即興で 物語る朝寝坊のスープ

初出 2021/12/30


「ごっこなら」指を絡めて雪原に ふたり倒れて眠ってみせる

雪原のひかりに刺され貫かれ 旅立ちの日の午睡さやかに

初出 2019/11/24


非常口燈るフロアを見渡して 口をついたは「わたしって何?」

向かい側もう一脚の椅子見つけ 私はあなたを待っていたのね

初出 2019/12/16


『はつ戀』と作品名を読み上げる 君の唇仄かに熱い

木枯しや荒れた唇舐めないで リップバームの口づけひとつ

初出 2019/11/7


鳥渡り俯き顔をよぎる影 手袋の手を掴み損ねる

この手には決して届かぬ渡り鳥 後ろ姿を袈裟斬りす影

初出 2019/11/12


雪の様に少しの瑕疵も無い様に 浴槽の底青きひとひら

テーブルに一葉だけの青写真 清潔な本冷たさもない

初出 2019/11/9


どちらかを呑み干してから死になさい 左手に毒右手に四六

弾丸もナイフも毒も無粋だよ いのちに至るあなたをください

初出 2019/11/11


部屋広くさみしさにまた追い越され あなたの星を抱いて眠る

帰路寒く自宅のLEDの白 星に届けとさみしさを積む

初出 2019/11/18


細雨に傘閉じられず惑う夜半 地面は鏡三叉路は青

夢覚めて薄い水面の小さき星 惑う未明の雨は止んだか

初出 2019/11/13






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